曇り空のラグビー場に、激励の拍手が成り響いていた。スコアは0-105。チャンピオンに挑み、結局何も残せぬまま敗れ去っていく。いや、暖かい激励の拍手だけはこの時、この場所に残すことができたのかもしれない。
どんな状況でも支えてくれる暖かいファンが居るのは喜ばしいことだ。でも、このチームはもっと何かを残せたはずなのに……。
中央大学ラグビー部は今年も大学選手権で苦しんだ。しかし、これまでのプロセスは過去2年とは異なっている。山下組が築き上げたものと、失ってしまったもの。この視点で、改めて戦いを振り返っていきたい。
順調だったスタイルの構築
春の大会で中大は印象的な戦いぶりを残していた。対抗戦の強豪・筑波大を撃破したのはもちろん、前年とは異なり攻撃的なラグビーにチャレンジしているのが好印象だった。
前年の桧山組は戦いに苦戦したのはもちろん、戦い方もモールとディフェンスと浜岸のキックに頼ってばかりだった。リーグ戦では何とか残留を果たしたものの、大学選手権では上位チームとの差が歴然と表れていた。
何とか次は1つでも多くトライを奪い、多く勝ち星を積み上げたい。この考えでチームはまとまっていた。モールやPGに頼らず、恐れずバックスに展開する。その変貌ぶりは多くのファンを驚かせるものだった。
夏合宿を経て迎えたリーグ戦。ここで中大は少し戦い方を現実的なものへと変更していた。初戦の法大戦、そして因縁の大東大戦。初っ端から難敵とは言え、上位進出のためには勝利がマストである。
そこで披露したのが「体力のラグビー」だった。前半は我慢してビハインドを最小限度に抑え、後半の残り10分がため込んでいたスタミナをフル活用してかき回す。春に鍛えた展開攻撃はもちろん、昨年の積み重ねもあるモールも効果的に活用していた。
結果は見事な連勝スタート。今年の中大はひと味違うことを示すには充分だった。ちょうどワールドカップにて、日本代表も持ち前のフィットネスを存分に生かして勝利を挙げていただけに、方向性に誤りはないと僕も鼻高々だった。
東海大、流通経済大には敗れたとはいえ、下位チームを寄せ付けず3位でフィニッシュ。この粘り強い「体力のラグビー」を続けていけば、王者にも一泡吹かせられるかもしれない……。そんな思いを抱いて選手権に挑むも、ここで思わぬ壁にぶつかってしまう。
間違えた「武器」の選択
大学選手権の初戦は関西大学。49年ぶりに大学選手権へ出場する古豪だった。大目標である帝京大戦に向け、弾みのつくゲームをしたいところ。
……だったのだが、中大は苦戦した。スタメンを変更し、前半から攻撃で畳みかけたいという意志は抱いていた。でも、プレーは浮き足立つばかり。相手の強烈なタックル、そして素早いパス回しに翻弄されていった。
この試合で気になったのは中大の意識が「まずは展開攻撃」というところに傾いて点だった。リーグ戦では前半は守備、後半は勝負どころから攻撃というのが基本的な流れだった。そして、そのゲームプランで着実に勝利を積み重ねていた。
なのに、この基本線を崩した。もちろん、帝京大に対して我慢し続けるというのは難しいと考えるのが普通だ。リーグ戦も、前半だけを見ればお世辞にも安心できるものではない。最初からどんどん攻めて、相手の戦意を喪失させる。それが山下組の考える「進化」だったのだろう。また、去年の大学選手権で最下位の成績になったのも、トラウマとして残っていたのかもしれない。
とは言え、こんな簡単に「体力のラグビー」を放棄してよかったのだろうか……?
何とか後半建て直し勝利を収めたものの、不安は募るばかりだった。また、この試合で中心選手であるフランカーの佐野やセンターの笠原を怪我で失ってしまった。
そして、イヤな予感は的中した。次の法大戦は後半に23点差を逆転されて完敗。「試合終盤に強い中大」という肩書きは完全に消失してしまった。
帝京大戦、中大はしっかりとした目的意識を抱いて勝負に挑んだ。ボールを持ったら臆することなくパスを展開し、攻撃する。一度もぶれることなく、その姿勢は貫かれていた。
しかし、結果は無惨なものだった。最後まで気力を振り絞って戦っていた。でも、「できること」と「やりたいこと」の方向性が異なったがために、悲劇は訪れた。
かくして中大ラグビー部は、大学選手権でチーム力をアップデートさせることに失敗。3年連続で大学選手権は失望の舞台となった。リーグ戦の充実を間近でみているからこそ、悔しさは増すばかりだった。
次のシーズンは松田監督が酒井氏をヘッドコーチに迎えて4年目となる。天田、長谷川、住吉、浜岸など、1年次から主力で活躍する酒井チルドレンも最終学年だ。彼らは過去の歴史を遡って考えても、かなりの有望な選手が揃う「奇跡の世代」である。
だからこそ、本当に次の1年は失敗が許されないのだ。取り巻く人々の意識は大きく変化し、より明るく、よりストイックな空気がつくられている。この変革のプロセスをラグビー界に示し、一層影響力を増させためには、やはり「結果」が必要なのだ。
結果を出すためには、この山下組で「何ができたのか/できなかったか」を振り返る必要があるだろう。ゴールは明確に示されていた。指導者も選手もゴールのために誠実に動いた。しかし、使った武器を過信していた。上には上がいるのに、自分たちが一番上だと思っていた……。
本当の武器は何だったのか。それはこのシーズンを振り返れば、はっきりと示されている。それを今度こそアップデートさせるのである。その先に間違いなく、「勝利」というゴールは待っているのだから
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