9月1日に行われた天皇杯1回戦を勝ち抜き、横河武蔵野FCは再びJ1クラブへの挑戦権を得た。
対戦相手はFC東京、場所は味の素スタジアム。
昨年と同じシチュエーション。果たして、結果は如何に?
というわけで、今回は昨年旧ブログで発表した「横河武蔵野FCの幸福すぎる90分間」を、ちょっと小説風に再編し、改めて公表しようと思う。
試合を見た方は当時の興奮を、そうでない方は天皇杯の面白さを、少しでも感じて頂ければ幸いである。
7日は味スタ行きます!
あと、自分がタブレット観ながらニヤニヤ出来るように作成したPDF版もありますので、読みたい方はご一報下さい←
===============
ゴール裏には提灯が並び、「横河祭り」と書かれた弾幕がなびいている。コールリーダーらしき人が紙コップにお酒を注ぎ、みんなもこっちに来なよ!と手招きしながら配っている。やがて乾杯のコールが盛大に響き、サポーターたちは美酒に酔いしれた…
「試合後はさぞかし盛り上がったんですね!」と言われそうだが、改めて強調したい。これは試合開始30分前に繰り広げられた光景であると。
JFL(3部リーグに相当)に所属する横河武蔵野FCと、前大会の王者・FC東京が戦う第92回天皇杯2回戦、東京ダービー。僕は横河武蔵野FC側のゴール裏に座り、この試合を眺めていた。特に横河の肩を持つ理由は無い。「弱者の側」で見た方が新鮮なのでは? という素直な予感である。
その予感はスタジアムに入ってから、良い方向に的中した。横河ゴール裏は楽しい雰囲気であり、かつテンションが異様に高かった。天皇杯に出場するのが久々と言う事もあり、「大きな大会に出場できる」「Jリーグのクラブと戦える」「全力を出せる」という純粋な喜びが、この様な雰囲気を生み出したのであろう。
普段のリーグ戦とは違う、オールアウトするための旅の始まり。まさかその旅に壮大な結末が待っているとは、その時の僕は知る由も無かった。
「5バックで守る横河対攻めるFC東京」と言うピッチ内の構図は、あまり崩れる事は無かった。前半は時折、片方のSBを高い位置に上げて【4-3-3】のようなシステムにすることもあったが、次第に見られなくなった。「この試合で打てるシュートは4~5本かな…」。前半の途中からそう考える始末だった。
そんな攻められない時間は終始続いていたが、ゴール裏のテンションは全く勢いが衰えていなかった。いや、むしろパスカットやGKのファインセーブが起こるたびにチャントのボリュームは上がっていた。
♪ 武蔵野 青と黄の男達 ♪
♪ 見せつけてやれ 俺たちの町の誇りを ♪
「銀河鉄道999」のAメロをベースにしたチャントがよく歌われていた。ユースチームから借り出されたサッカー少年たちと、年季の入ったコアサポーター集団が織り交ぜる歌声(とラッパの音色)は、僕の耳にこびりついて離れることは無かった。
前半終了して0-0。
一応、「やりきることはやりきった」という表情の横河サポに対し、向こう側にいるFC東京ゴール裏は強い日差しにやられてバテているように見えた。
迎えた後半6分、カウンターで抜け出した上田がミドルシュートを放つも、GK塩田がファインセーブ。シュートを防がれたのに、周囲はまるでゴールが決まったかの様な騒ぎだった。
しかし、ここからFC東京の反撃が一層強まった。
ルーカス、梶山という主力選手を投入し、ボールキープ、ポストプレーが順調に機能し始める一方、横河は必死のクリアが目立つばかりで、攻撃では1トップの選手が孤立するシーンが続いた。
一方的な試合展開となり、横河ゴール裏は気落ちしたのか? 否、むしろ前半以上の盛り上がりがひたすら続いていたのである。
改めて冷静に考えてみると、「0‐0を継続できた」事が、テンションの維持に大きな役割を果たしたと思う。
守備的戦術の最大のリスクは「点を取られる事」であり、取られた瞬間全てが水泡となる。もちろん、応援する側にとっての唯一の命綱が途切れてしまう訳だ。ギリギリの精神状態の中、DFの金守は体を張り、GKの飯塚はボールに食らいつき、サポーターは武蔵野の誇りを歌い続けていた。
そこにいた全ての人間が、ある種のランナーズハイに襲われていた。
残り5分、FC東京が前がかりになった事もあり、横河にもおぼろげながらチャンスが生まれてくる。
「銀河鉄道999」のヘビーローテーションは続き、誰もが手拍子を止める事は無かった。何故か僕も、立ち上がって声を上げていた。
その時ふと、思い浮かんだのだ。
次第に高まっていく「延長戦」への予感よりも、「楽しくて程良い緊張感が継続する今」がもっと長く続けば良いのに、と。
まあ、仮に延長戦に突入して、点を取られたとしても、ある意味諦めが付く。いや、むしろ「120分間もJのクラブを苦しめたんだ!」と言う事で、90分で負けるよりかは自慢もできる…。
そんな思案を繰り広げていたところ、横河武蔵野のMF・岩田が放ったFKがスーッとゴールに吸い込まれていった――
こうして天皇杯2回戦の「東京ダービー」は、ジャイアントキリングによる一生モノの感動と、「厚別でAC長野パルセイロと対戦」という、何とも全国規模のトーナメント戦らしい「不条理な権利」を僕たちに与えてくれた。
不思議な事に、ピッチもスタンドも「諦めずに全力を出そう!」という雰囲気が、途切れることなく続いていた。それは普段のリーグ戦ではなかなか醸しだせないものであり、「天皇杯」「ダービーマッチ」「上位への挑戦」という幾つかの要素が絶妙に絡まり合ったからこそ、生み出す事が出来たのではないだろうか。
横河武蔵野FCが過ごした90分。
それはどんな結末が待ち構えていたとしても、「幸せすぎる」時間だった
0 件のコメント:
コメントを投稿