2016年2月19日金曜日

【競馬エッセイ】どうか、正夢



「正夢だ!」
このレース実況におけるラストワンフレーズ。
馬とレース展開の特徴が見事に具現化されている、素敵な一言だと思う。

その日の大井競馬場は、ずっと雨が降り続いていた。初夏の割には肌寒さすら感じる。残業のお陰でいつもより遅れて競馬場にたどり着いたこともあり、パドックへ行くのも億劫だった。まあ、馬券はクロスクリーガーを抑えておけば大丈夫。あと、贔屓の今野忠成騎手及びラッキープリンス号が出走するので、その複勝でも勝負することにした。レース展開はあまり考えたくなかった。この不良馬場であれば、後ろから来る馬は苦しいというのは明らかだ。

午後8時すぎ、ゲートが開いた。ハナを主張したのはやはりクロスクリーガー。実に強い競馬だ。ラッキープリンスも前目の位置で必死に粘っている。
第4コーナーを周り、長い長い直線へ。有力馬が徐々に脱落する中、ラッキープリンスだけは必死に、トップをひた走る強敵に食らいつく。よし、その調子だ。このまま離されるなよ!

その時だった。ラッキープリンスの外から威勢の良い馬がすーっと追い抜いていった。その脚にはまるで水掻きがついているかのように、泥んこの中をすいすい進んでいく。一旦直線で突き放しにかかったクロスクリーガーにも、もう既に追いつこうとしている。

何が起こっているんだ? 驚きのあまり、僕の叫び声は喉から出る前に消えていった。その代わり、冒頭で挙げた実況アナウンサーの一言が耳に入ってきたのである。

あれから半年。ジャパンダートダービーを制したノンコノユメは、ダート界の頂点を奪おうと挑戦し続けている。あの末脚は正夢だったのか。もう一度、この目で確かめたいところである。

そんなドキドキがある一方、クロスクリーガーは残念ながら病に倒れこの世を去った。フェブラリーステークスの舞台にも、間違いなくノンコノユメと共に立っていたはずなのに…。
鮮烈な末脚への予感が膨らめば膨らむほど、逃げ粘る馬の姿も同時に思い出してしまう。そんな対極な二頭の姿こそ、正夢であって欲しかったのだが……

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